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プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

日本型「成果主義」の可能性

日本型「成果主義」の可能性

3回生ということもあり周りで就職活動について話をする人が増えてきた。そうすると自然と読む本や新聞記事もそれに関する会社絡みのことが多くなる。そんななか以前富士通の暴露本と出した城繁幸さんが書いた本を読んだ。僕の中では外資系などが採用している成果主義は善で、コテコテの村社会に生きる日本社会が採用している年功序列主義は悪という見方があった。もちろん石油危機、バブル崩壊という波乱を切り抜けてていけたのは年功序列、終身雇用によって労働者をすぐクビにしなかった日本型経営のおかげであることは知っている。でもなんとなく成果主義は若者の考え、年功序列はおっさんの考えという感じがあった。この本を読んで正直成果主義もいろいろ問題を抱えているんだなと思った。ではその問題をひも解いてみよう。

年功序列とは何なのか
年功序列とは年齢が上がるにつれて役職・賃金を上昇させる人事制度のことである。まず言っておきたいのが年功序列にも多少の成果主義があるということだ。例えばさる技術者が素晴らしい技術を開発して特許をとり会社に貢献したとする。年功序列において、その技術者の給料が急にめちゃくちゃ上がったり、いきなり役員になることはない。残念なことに給料が上がるとしても毛の生えた程度だろう。しかし長期的に考えるとその技術者が平均以上の管理職につく可能性は高い。つまり出世もして給料もたくさんもらえるということだ。そういう意味での成果主義は存在していたのだ。例に挙げた技術者のように極端に優秀か、もしくは反対にサボってばかりの社員以外は基本的に皆同じレベルと考えられる。それぞれに差をつけないシステムなのだ。ということは同期で入社した人がどんどん一緒に出世するということだ。ここで問題なのはある程度出世したときに同期の皆を「部長」「幹部」にすることは無理と言うことだ。ある一部の人が部長になり他の人が出世しないというわけにはいかない。この問題の解決法は以下の通りだ。

ポストを増やす
無理やりポストを用意するという手法がある。例えば営業部のポストが足りないのなら無意味に第一営業部、第二営業部を作りポストを倍にするのだ。このようにして企業は組織をどんどん拡大することに力を注いだ。

仕事を増やす
仕事を増やせばやることも増え業務も拡大しポストも増える。まずは本業に関連するものから増やしていく。例えば総合電機メーカーではスーパーコンピュータから半導体白物家電から電池にいたるまで多岐に渡った。いろいろ手を出すとそれらすべてから利益が出るわけではない。重要なのは本業で利益を出すことなので少々赤字が出ていても大目に見ていた。また黒字であっても親会社が相場よりも高い値段で発注を続けているだけのところもあった。今度はさらにポストを増やすために本業以外のことをするようになる。連結従業員数1万人以上の大企業では大抵グループ内に名刺印刷や運送、食堂事業を手掛ける企業を抱えている。「こんなの外注すればよくね?www」と思うのが普通だろうが企業にとっては仕事を増やし年功序列を維持する方が大事だったのだ。

次に年功序列においての評価制度についてであるがそもそも上述したようにポストを量産すればよかったので評価は非常に曖昧だった。訪問販売のセールスマンのような明確な数値目標があれば評価はしやすいが事務などの職種は評価をつけるのがとても難しかった。成績をつけるとしても「君の成績はBだ。以上」でおわりであった。そのような状況下では当然管理者の評価能力が育つわけもなく、ただただ組織を大きくし年功序列を維持することに皆必死だったようだ。

成果主義の始まり
バブルが弾けて業績が急落した時企業は新卒採用をストップした。それから会社にあまりに人が多すぎるということに気付いた。人件費にお金がかかりすぎているのだ。それを削減するために企業は赤字を出し続けている事業部を中心に大量のリストラを出した。これまで「組織の拡大化」を目指していた企業が一変して「組織の縮小化」を目指すようになった。リストラをするとポストも減ってしまう。ポストが減るということはポストに就く競争率が上がったということだ。そこで初めて企業は「社内で人材を選抜する」ことを始めた。成果主義の始まりだ。

日本企業の成果主義=目標管理制度
成果主義を導入することは目標管理制度を導入することと同義である。目標管理制度というのは「前期よりも10%売り上げを伸ばす」と言った目標を掲げてそれを達成すれば昇給するというものだ。目標管理制度の最大の特徴は目標は上司の目標とリンクするということだ。その上司の目標はそのまた上司へとリンクする。そしていずれは社長の目標に到達する。つまり「従業員個人の目標の総計=企業の目標」というわけだ。目標と大げさに言っているが「売上10%増加」「コスト削減」といったことは成果主義以前から繰り返し言われていたことだ。成果主義というのは具体的な目標を掲げて自己改革に励み日々何となく過ごしてきたことに終わりをつげようと言い変えられるだろう。

目標管理制度の大前提/問題点
大前提は4つある。これら4つのうち1つも欠けてはならない。
1. 目標が数値目標化できる
例えば営業マンが「営業をがんばる」と言っては話にならないので具体的に「〜を100万円売る」と言った風に目標を定める。

・問題点
人事、経理、生産管理などの職種はルーティンワークが99%を占めるので具体的な数値目標が立てにくい。立てたとしても「資料を3日早く出す」くらいのレベルだ。それなら営業、開発部門なら目標が立てやすいだろうと誰もが思うはずだ。しかし現実は問題点がある。例えば「部として今期の売上目標を10億円とします。部員は10名いるので1人1億円売上げます」というような目標がある。これには無理がある。なぜなら10名が10名同じ仕事をしているわけではなく商談を取ってくる人、生産管理部門と調整する人と様々だからだ。開発部門においても同じで性能を10%向上させると目標があってもそれは部の目標であって個人にブレイクダウン(分類)することはできない。
2. 目標のハードルが同じ高さ
二重跳びが100回跳べる人が「縄跳びを3回跳ぶ」と言っても簡単に達成できてしまう。そうならないためにもその人個人に見合った目標を立てることが重要である。しかし日々流動的に変化しているビジネスで目標を定めることは難しい。例えば「~を100万円で売る」と言っても競合他社が「~を50万円で売る」のなら目標の難易度は上がるだろう。

・問題点
それぞれの業務はバラバラでとてもハードルを同じ高さにするのは難しい。また難易度は極端な話終わってみないとわからない。また担当業務の重要度という「裏の基準」により最初から成績はほとんど決まっていることが多くモチベーションの低下につながっている。
3. 常に目標が現状にマッチしている
刻々と変化するビジネス界において目標が形骸化しないためにも上司と適宜話しあう必要があるだろう。また異動や担当変更したときにも新たな目標を立てる必要がある。

・問題点
変化の激しいIT業界などではいちいち目標を変更する時間はない。またチームで仕事をしている時一人が障害対応に追われた時チーム全体のスケジュールが遅れることになる。そうするとチーム全員の目標を変更しなければならなくなる。
4. 評価の際、達成度だけで絶対評価が可能
目標は個人個人の能力で違うので達成度で評価する。上司が「今思うと目標が簡単すぎたね。だから成績はC」と言っても「君はよくがんばったから目標未達成だけど成績はAね。」と言ってもダメだということだ。本人は他の人の目標など知るわけもないのだから。

・問題点
「3コール以内に電話を取る」目標が形骸化している中で絶対評価を取り入れるのはまず不可能と言えよう。ということは相対評価を取らざるを得ず、管理職は従来通り人事部から評価方法を指定され部下を相対評価しなければならない。評価される当事者から見れば上司から「目標を設定しろ」と言われ自分で定めた目標を達成しているのに評価されないという状況に陥る。部下たちは強いフラストレーションを感じるだろう。目標管理制度を導入した企業で強い不満が出てくるのは評価する側、評価される側のダブルスタンダードに起因すると言えよう。

結局成果主義ってやるべきなん?
結論を言うと成果主義にするべき。それはポストを削減することによって経営をスリム化できるから。重要なのは成果主義を導入すれば万事うまくいくわけではない。チョコレートのメリー社が例に出ていたけど、数値目標というのは経営をうまくさせるものなのでポストに就くものにとっては有効である。しかし一般的な社員に数値目標をせまるのは無理が生じるのでそこは数値目標でなく適宜目標を定めるべきである。例えば「新規開拓を5件達成する」という目標で1件しか達成できなくても根本の目標は新規開拓をすることなのでそこは評価する。またその1件が大きな企業ならまた話は違ってくるだろう。

成果主義を導入すればみんなやる気が出る
理論的にいえば報酬を10倍にすればがんばるだろう。しかしそこには勝者、敗者の構造が必ずある。勝者の人はおいしい思いをできるだろうが敗者の人はフラストレーションがたまるしかない。また敗者の人のほうが勝者よりも多いので人間関係がうまくいかなる恐れがある。敗者になった人間はやる気がなくなる。彼らは転職という道を探すが終身雇用制度がまだまだ根強い日本で転職するのは勇気がいる。結局転職せずに同じ給料のまま働くことになる。そうすると人材の不良債権を生むだけだろう。

成果主義がうまくいくにはアメリカの成功例をそのまま代用してもダメだ。試行錯誤し痛みを伴う改革を覚悟しなければならない。