not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

奈良競輪に行ってきた話を「村上龍映画小説集」の冒頭風に小説化して書いてみた。

先日、競輪に行ったときのことを、物語風に書いてみる。冒頭の書き方は、「村上龍映画小説集」のパクりでしかない。



当時、私は京都の私立大学に通っており、最終学年で来年から社会人になる年齢だった。呑気に残りの大学生活を過ごしたいのは山々だったが、残りの単位を取るためによく学校へ行っていた。その日は、5月のよく晴れた日でどこか出掛けたい気持ちだった。少し遅刻し教室へ入ると、誰もいなかった。一瞬、ぽかんとした気持ちになったが、すぐに「休講」という文字が頭をよぎり、にやりとした。私はすぐに大学をあとにして、財布の中身を確かめながら、奈良の平城へと向かった。古の都へ歴史散策をしに行ったわけではない。競輪である。平城駅から奈良競輪へと歩き始めると、定期テストでもあったのかいつもより早い時間に下校する高校生たちとすれ違う。陽の光に照らされ、いっそう輝かしく光る彼らの顔を見て、私は視線を逸らした。競輪場に入ると、平日の昼間にもかかわらず男たちが群がっていた。ほとんどがジジイで、あとは何の仕事をしてるのかわからないおっさんばかりだ。若い男は珍しいのかじろじろと見てくる。不快に感じたがレースはすでに始まっているので、急いで車券を買った。カーンと鳴る鐘を聞きながら、くるくるとコースを走る選手を見ていくうちに財布は軽くなっていった。勝ちが欲しいと思った私は素直に1番人気の車券を買うことに決めた。出走表に書かれたその選手の年齢は48歳で、大丈夫か心配になったが、そのおっさんレーサーに願いを託した。レース序盤まではコース取りがよく、最終周の鐘が鳴りいよいよそのおっさんがスパートをかける時になった。しかしおっさんはタイミングを外し一瞬の隙を突かれ、一気に抜かれてしまった。意気消沈したおっさんはすぐにレースを諦めてしまい、ノロノロと走りながら背中を丸めて最下位でゴールした。会場からは罵声が飛び交った。70歳くらいのジジイは、
「このガキャァ!」
と罵った。酒飲みのおっさんは、
「しっかり自分の仕事をしろ!」
と声を大にし、地面に痰を吐いた。私は自分のことを言われているような気がして、帰途についた。