not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

高倉健・倍賞千恵子主演「駅 STATION」で、飲み屋「桐子」で八代亜紀「舟唄」が流れるシーンはずるいくらいに良い

名作だと思う。

刑事とオリンピックの射撃選手という二足のわらじを持つ、主人公三上(高倉健)の話だ。腕を買われ、重要な事件にかり出されて、人を撃つことを繰り返す。三上は誰にも分かってくれない苦悩に悩まされる。「自分は一介の刑事だから、職務を全うするだけであります」と言うも、本心は違っていた。

以前、増毛で起こった事件で逮捕した男の死刑執行を本人からの手紙で知ることになる。三上は兄を思いの妹、すず子の目の前で、兄を逮捕したことへの心残りからか、刑務所に贈り物をずっとしていた。その兄の墓参りをするために増毛に行く。当然、故郷雄冬へ年末だから帰省するためということもあったと思う。前と一緒の宿に泊まり、すず子が同じように働いている。風待食堂のシーンでは、すず子が以前と同じように電話を取る。編み物をしていたが、誰かに編んでいるのだろうかと考えてしまった。何事も大きなことは起こらないが、言葉にできない、何とも言えない良さがある。昔付き合っていたチンピラも誰かと結婚していた。中途半端な気持ちから付き合っていた男に、当初から三上は怒りを感じていただろう。三上は離婚もしているし。チンピラが何食わぬ顔で、風待食堂の娘に、話しかけていたのを見て、すず子だけの時間は止まっていてるのだなあと思った。

この映画の良さがぐっと深まるのは桐子(倍賞千恵子)が登場したところからだと思う。初めて、飲み屋「桐子」に訪れたときのシーンがとても良い。孤独な男と同じく孤独な女が、出会うところだ。長い同じカットで、この二人が本当に初対面なのかと思ってしまうくらい、自然に仲が良い。極寒の北海道なのにあったかい感じもする。「どんな遊び人も家庭に帰っちゃうからね」と、水商売の女にとって年末年始がいかに辛いことか桐子が言った後に、八代亜紀の「舟唄」が流れてくる。

二人で遊びに行った後、事が終わると、桐子が「大きな声出してなかった?」と聞く。そのあとに、三上の心の声で「樺太まで聞こえるかと思ったぜ」と言う。普通なら笑ってしまいそうなのだが、あの状況で高倉健が言うと、そんな風には聞こえない。そこがすごい笑。

桐子の昔の男が、三上の上司を殺した犯人だった。最後にその男を三上は、銃で撃つ。桐子の目の前で。三上は退職届を出して、桐子と結婚しようと考えていたと思う。その瞬間、それらの願いはなくなったのだ。最後まで職務を全うした三上がいたたまれない。簡単な言葉になってしまうけど、一人の男と一人の女が結びつくのはこうも難しいものなのかと思った。

最後にまた飲み屋「桐子」に訪れる。ここで訪れる三上はどんな心境だったのだろう。もういろいろ考えすぎて、何も考えられなかったと思う。ただ桐子の顔見たいがために訪れたのだろう。しかし店に入っても、会話はない。静かに時刻表を見ている三上に、テレビに視線を送る桐子。そこで再び、「舟唄」が流れてくる。ずるいくらいに良いシーンであり。桐子の気持ちがぐぅっとこみ上げてくるのがわかる。その背中をなんとも言えない表情で見つめる三上。この二人にしかできない演技ではないだろうか。