not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

梁石日「タクシードライバー日誌」は、仕事は自己実現の前に、まずお金を稼ぐ手段であるということを教えてくれる

タクシードライバー日誌 (ちくま文庫)

タクシードライバー日誌 (ちくま文庫)


ブックオフで何か良い本はないかと探していた。毎回事前に知っている作家の本を調べてきて、ブックオフに行っていたので、本を見つける楽しみに欠けていた。だからおもしろそうなタイトルがあれば買おうと考えた。それで買うのを決めたのがこの「タクシードライバー日誌」だ。この本は会社が倒産した後、お金が無くなった梁石日がタクシードライバーとして働く様子を書いているエッセイだ。

買ってから改めて知ったのだが、梁石日は「血と骨」の原作者だ。2年くらい前に映画「血と骨」を見たことがある。壮絶な父を描く映像に痺れた覚えがあった。その時は、梁石日の半自伝的な映画だとは知らなかったと思う。

さてタクシードライバーの仕事についてだが、思った以上にきつい仕事なようだ。完全に肉体労働である。車に乗っていて楽だとか、人間関係に縛られずに気楽にやっていけるとは思ってはいけない。車に乗っていると痔にはなるし、タクシーは一般車両に比べて事故の件数3倍近く多い。死ぬ確率が高いし、梁石日も大型トラックに追突され、幾度となく死にかけている。また確かに、一人での仕事になるので自由度は高い。しかしタコメーターを見れば、さぼっているのは一目瞭然だし、仮眠や食事のタイミング、帰社の時間もまちまちで非常にストレスがたまるのが伝わってきた。

石油ショック以来、各企業は経費削減のために、ハイヤータクシーの利用をやめるようになった。結果、ハイヤーとして使われていた車はそのまま一般のタクシーになった。それによって、大幅にタクシーの台数が増加し、競争が激しくなった。深夜の過酷な労働、上がらない給料とどんどん暗い業界になっていったようだ。

この本を通じて感じたのは、仕事は自己実現の前に、まずお金を稼ぐ手段であるということである。就職前の学生が得る社会人の情報というものは、SNS上の情報やブログの記事の場合、明るい情報しかない。輝かしいキャリアを紹介したり、「成長するためにはどうあればいいのか」といった心構えといったものを乱発している。それは若い僕には刺激の強いものであったり、わくわくさせるものであったりする。梁石日のようなタクシードライバーの生活を考えたとき、そのようなメッセージは一切感じ取れない。金がない、給料が安い、疲労、借金、事故で死にかける、保険屋が支払う額が少ない、転職したいと思うけど職がない、仕事をしたくない、でも金がなくなるから仕方なく客を乗せる、また事故に遭う、死にかける・・・。実に暗い!こんな状況には死んでもなりたくないと思った。

じゃあ「真面目にキラキラした人生を歩めるように努力しよう」と感じたのか。少しは感じた。お金を稼ぐには、継続的な努力が不可欠だと思うから。ただ本当に金がなくなったりしたら、自己実現への欲望もクソもなくて、そんな高尚なことを考える余裕さえもなくなるという学びのほうが強かった。人間的な思いやりの感情さえもなくなって、お客さんにイライラしたりするものだと。きれいごとでは世の中進まないんだなあと。そういう建前から外れたダークな部分を感じることができたがよかったし、おもしろかった。