not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

高倉健がカタギの経営者を演じている、向田邦子原作「あ・うん」で主人公・門倉のセリフがなんとも絶妙

向田邦子が原作の映画。向田邦子のエッセイや短編は呼んだことはあるが、彼女が脚本を書いた話は読んだことはなかった。それは台本みたいにセリフがずらずらと並んでいるのを読むのが嫌だったから。「寺内貫太郎一家」や「だいこんの花」はドラマでやっているのは知っていたが、その他の「あ・うん」や「阿修羅のごとく」が映像化されているのは最近になって知った。高倉健が主演と知って見るしか無いと思って見た。

寝台戦友である門倉(高倉健)と水田(板東英二)、水田の妻たみ、水田の娘のさと子を描いた話。水田とたみは夫婦だが、たみは門倉のことが好きである。門倉もたみのことが長年好きだが、結婚するというわけでもない。門倉は君子とすでに結婚しているが、水田の家族ととても仲が良く、頻繁に遊びにいく。それを君子は良く思っていない。水田の方も門倉がたみのことが好きなのはわかっている。かと言って門倉を突き放す訳ではない。戦友であるし、たみとさと子を悲しませる気がするし、自分には足りないところを門倉が補ってくれるのでうまく家族がまわるのだ。絶妙なバランスで静かで品がある話に思わせるのがすごいと思う。この設定だったら、誰かが軽率な発言をしたり、間違いを犯したりして一気にドロドロな話になってしまうに全くならなかった。門倉が浮気するところがあったが、それは水田の女遊びを辞めさせて、たみを一人にさせないためでもあった。

印象に残ったシーンは見合いを断っても会ってしまう男を思うさと子と門倉がコーヒーを飲むシーン。

さと子「いちばん大切なことって、人には言わないものなんでしょ。」

水田、たみ、門倉が本当のことを言わずに生活しているのをちゃんとわかっているさと子。しかしそれを避難して、本音を言うことが良いとは言わない。

さと子「嘘にはコーヒーがよく似合うのかしら。」

こういう言い回しは良いと思う。

さと子「おじさん、お母さん好き?」

単刀直入に言うも、門倉は答えない。答えられない。話題を違うものにしていく。さと子の見合い相手の石川が釈放されたことについて聞くと、さと子は彼にもう特攻に見張られるから会うのはやめようと言われたと言う。

門倉「会いたいときに、会うのを我慢するのも愛情なんだよ。」

さと子に言ってはいるが、自分に言い聞かせているようだ。さと子は石川が貸してくれたベルレーヌの詩を口ずさむと、続きを門倉が朗読する。

巷に雨の降る如く我が心にも雨ぞ降る
ベルレーヌ

続けて門倉はさと子に向かって言う。

門倉「つらいね。・・・・人生には。人生にはね・・、諦めなくちゃならないことがあるんだよ。

門倉は励ます。

門倉「人生ってね、もっともっといいもんなんだよ。」

誰にも言えないことをさと子にだけ言った門倉。とても良いシーンでした。