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プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

青山真治監督・役所広司主演、映画「EUREKA(ユリイカ)」を見た感想

雑誌やブログで評判だったので見てみた。

粗筋
バスの運転手である沢井(役所広司)はバスジャックに巻き込まれる。警察は犯人を射殺するも、4人の犠牲者を出してしまった。生き残ったのは沢井と幼い兄妹、ナオキとコズエだった。目の前で人が殺されるのを見たという反動から、沢井は2年間放浪の旅に出て街を離れる。ナオキとコズエは母親が家を出て行き、父親は死ぬ。二人は父親が死んだ保険金で、学校も行かず家で隠居生活を始める。街に戻ってきた沢井は兄妹のことを知り、家を尋ね、一緒に暮らそうと申し出る。

感想

難しい映画だと思った。3時間半という長時間のせいもあると思うけど、その中に微妙な心理描写が数多くある。

テーマが難しい
目の前で人が殺されたという共通の体験から、沢井とナオキには共感できる部分があった。それは人を殺しても良いだろう、なぜ殺してはいけないのかという感情だ。通り魔事件を繰り返すナオキを捕まえて、沢井はナオキを軽く傷つけて体の痛みをわからせて説得する。沢井は警察署に向かうナオキに「生きろとは言わん。死なんでくれ。」という。このあたりの一連の流れがこの映画の重要なテーマ(映画にそもそもテーマなんてない?笑)だと感じたけど、正直難しくてよくわからなかった。

バス
沢井は街に戻ってきてから、バスの運転手にはならずに土木作業員をしていた。兄妹の家に居候するのだが、沢井に与えられた部屋からは自分が運転していた路線のバスが見える。また仕事場に行く途中でバスとすれ違う。バスを見るたびに、バスジャックのことを思い出していたのだろうか。

しかし土木作業場でユンボを運転した後に、沢井は同僚のシゲちゃんに「別のバスを運転したい」という。またバスに乗りたいというのはどういうことなのだろう。すぐにその後に沢井はバスを購入して、兄妹といとこのアキヒコを乗せて旅に出る。バスのことを考えないようにするではなく、バスに乗ってまた新しくスタートしたいということなのか。

カメラワーク
カメラの撮り方がうまいと思った。沢井が買ったバスで家を出るときに、バスの窓に家が写っていて、コズエとナオキが順番に写るところは、家を直接撮らないのでいいと思った。

ナオキが捕まった後に、コズエが泣いてバスから出てこないシーンでは、沢井がバスをトントンとノックする。そこで沢井とアキヒコはコズエが反応するのか見るのだけど、そこでコズエを映していないところが良かった。そうすることで見る人がコズエがどんな表情をしているのか、ノックしようとしているのか、迷っているのかを想像することが出来る。

海を見に行くところも良い。バスの運転席からのカメラで、家と家との間に海が見える。曲がり角を曲がったら海がバーンと見えるとか、上り坂を登ったら海が出現するという大げさな演出よりも、こういうほうがよっぽど自然だと感じた。

セピア色
この映画の大部分はセピア色の映像だ。最初は回想シーンとして、そのような演出を施しているのかなと思ったら、いつまで経ってもカラーにならない。セピアのせいか、終盤になると、絵が綺麗だから「これで終わりかな?」という場面がいくつもあった。

最後、沢井がコズエに向かって「家に帰ろう」と言って、突然カラーになる。セピアからカラーへの変化で、大観峰の緑が非常にみずみずしい。僕はこれをやっと新しい生活がスタートするというしるしと見てとった。