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プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

黒木亮「世界をこの目で」読んだ感想

経済小説を書く作家の黒木亮のエッセイ集。ロンドン在住。ロンドンの街をもっと知りたいと思い読んでみた。読んでみるとロンドンの話は一部で全体的に海外全般の文化紹介とか出来事紹介が多くてほぼ紀行文に近かった。

筆者の略歴

  • 筆者の経歴が面白く銀行や証券、商社で20年以上サラリーマンをやったのち、作家として独立。30代からロンドン在住で在住歴は30年以上。現在67歳。
  • 早稲田で駅伝のランナーをしていた。このときのことも小説にしている。やはりランナーは体力ある説。

筆者の仕事の仕方

  • 筆者のポリシーとして自分の目で見たことしか書かないというものがあり小説を書く際は徹底的に取材をする。小説家のイメージは一日中家にこもって書くというものだったけどこの人の場合、書いている作業時間は一日の三分の一から四分の一程度。他は取材のアポとったり、資料を読んだりしているらしい。
  • 元々世界をカバン一つで出張しまくっていた金融マンなので世界中に知り合いがいる。
  • 取材のためなら世界のどこへでも行く。たった一人の取材のためにカナダまで飛行機で7時間かけていくこともある。筆者いはく取材がおっくうになったら作家として終わり。
  • 1冊を書くのに使う交際費が数百万〜1000万近くなる。この交際費は主に取材のための移動代、取材の時はそこそこ高級レストランでおごるのでこれくらいになるとのこと。自分が泊まるホテルは質素なものにする倹約家でもある。
  • 日本国内での取材の時は楽天やYahooトラベルで一円でも安い宿を見つけようとするらしい。売れっ子作家で資産は十分あると思うのにここまでやるのがすごい。
  • 取材の徹底ぶりがすごくて福島第一原発所長をモデルにした小説を書いたときは所長の幼少期を知るためにまず所長がどこの小学校であるかを調査。普通に調べても記録が残っていないので所長が昔住んでいたところに行き中学や高校の同級生に取材依頼。そこからツテをたどって最終的には小学校をつきとめて当時仲が良かった人にもたどりつく。取材の大半は断られるが取材依頼をする時は手紙を書いたりするらしい。その労力にプロフェッショナルを感じた。

ロンドン

  • ロンドンの国立図書館は世界最大級の図書館。植民地時代のインドの新聞とかまで保存してあるらしい。だが入管の検査が非常に厳しく図書館利用の目的を深く聞かれる。これは日本の図書館だとただの暇人が集まる場所となるがそのような人を入れさせない工夫らしい。これをしないとホームレスだらけになるとのこと。アメリカの図書館とかはひたすらチェスをしているホームレスがたむろする。
  • 図書館は仕事の利用や大学教授とかだったらすぐに入れるらしい

イスラム

  • 宗教上の理由で利息が禁止されている。なのでローンではなくリースが基本。
  • アラブの人はビジネスの現場でも裸足にサンダル。
  • サウジアラビアには周辺国からの出稼ぎ労働者がたくさんいる。イスラムの女性は看護師を除いて基本的に働いていないので人手が不足している。
  • サウジアラビアの法律でサウジアラビアの外資系企業は一定数のサウジアラビア人を雇用しなければならない。しかしサウジアラビア人は子ども頃から甘やかされて育っているので仕事では使い物にならない人が多数。そもそも会社に出社しないみたいな全く仕事をしない人もいるらしく企業の悩みの種とのこと。
  • サウジアラビアは見かけ上、反米だが米僑の存在を無視できない。華僑のような存在でサウジアラビアのアメリカンスクールで学び、大学はアメリカに行く。卒業後に記憶するが思想的にはアメリカ寄りになっていることが多い。

日本

  • 京都議定書と排出権の話が面白かった
  • 京都議定書で日本は温室効果ガス排出削減量を1990年比で6%減少させなければいけないという取り決めをした。1997年に署名で目標達成期限は2008-2012。
  • 排出権は京都議定書に参加したEUや日本が目標達成が無理そうな時に他国で削減プロジェクトを作り、そこで削減すれば削減量としてカウントできるという仕組みのこと。このとき現地国には多額のお金を支払う。
  • 中国は温室効果ガスを排出しまくりなので排出権を売って大儲けした。中国からしてみると突然排出権というものが出てきて、勝手に他国の電力会社や商社がプロジェクトを起こして削減してくれるのでかなりうまい話だった。
  • 日本は排出権に述べ1000億円以上払った笑。
  • 結局京都議定書はさまざまな要因が重なり達成できた。不景気で稼働が停止した工場が多かったこと、東日本大震災で原発が停止したことなどネガティブ要因でなんとか達成できた。
  • 京都議定書は不平等条約で日本だけ不利な内容だった。日本はホストとしてメンツを保つためにサインせざるを得なかったが代償が大きすぎた。
  • 小学生、中学生くらいのときに社会の授業で散々京都議定書のことを習ったけどここまでひどい内容だとは知らなかった。当時の日本での評判では日本が環境先進国として世界を引っ張るくらいの感じだった。
    • これは実のところ結構正しい。日本はすでに戦後から新日鐵などががんばって不要なガスが出ないようにしたりする努力をしていた。だがeuなどは基本適当なので当時の技術を使えば簡単に削減できる状態だったらしい。日頃から頑張っている日本と金が絡む時だけばんばる外国との差が大きく現れた出来事だった。

中央アジア

  • キルギスは人種の坩堝。日本人のような見た目をしている人もいる。公用語はロシア語。最近は英語も通じるようになった
  • こういう日本人観光客がいないようなところでも日本の銀行や商社がプロジェクトを起こしていてすごいなと思った。特に中国の西のあたりのウイグル地区では風力発電が盛んで日本の電力会社の発電エリアもある。

マダガスカル

  • マダガスカルの旅行記が面白かった
  • マダガスカルは最貧民国でバングラデシュとかと同じレベル。なので物価が非常に安い。コーヒーが8円とか。2010年代の話なので今は変わっているかもしれない。
  • マダガスカルは国民がまじめで資源が豊富であるが経済が発展していない。この理由は汚職が横行しているからだと筆者は推測している。特に警察の汚職が激しく賄賂要求は日常茶飯事w
  • 旧フランス領で国民はフランス語を話す。旧フランス領の国は飯がうまいらしい。フランス料理がベースになっているかららしい。

仕事のやり方

  • 常にメモを取る。取材旅行は感じたこと、匂い、風景描写などなんでもいいから小説のネタになりそうなことをメモに書き留める。
    • 筆者は二十代の頃から作家になりたかったそうだが仕事が忙しくてできなかった。本は書けなくても将来的に役に立つだろうと想いからそのときから細かくメモを取るようにしているとのこと。

他の旅系本の違い

  • 今回のように外国に訪問した時の記録を書いている本を読むのが好きなので他の本と比較してみる
  • 例えばクレイジージャーニーでも有名な高野さんは海外の辺境を旅する作家。こういう人のパターンとして性格が怠惰、酒を飲む、無計画、貧乏というのがある。これはこれで読んでいて面白いが黒木さんは反対な性格な気がする。作家の取材というビジネス目的で外国に行っているので怠惰ではない笑。仕事中に酒を飲まないというルールも課していた。売れっ子作家、外資系でのサラリーマン経験などもあり裕福である。英語が流暢なのでコミュニケーション不全にならない。なので作家としての描写力も高いこともあって海外で起こったことを説明する能力が高い。
  • 旅系作家の多くが旅をすることが仕事だが、黒木さんは小説家という本業がある。なので気を衒った旅をする必要がない。あと取材のための旅行なので現地をよく知る人物と話をするので現地のことがよくわかる。旅系作家の多くは行き当たりばったりで出会った人と話すことが多い。