not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

「深夜特急」を読んだ

超定番旅本。あまりにも定番すぎて大学生の時に読むのを避けていたが2023年の初めから夏にかけて全六冊を読んだ。非常に面白かった。

この本はインドからロンドンまでバスで行けると聞いた著者が実際に日本を飛び出し本当にできるのかやってみたという話。舞台は1970年ごろ。インドまでは直行便ではなくマカオ、マレー半島、シンガポールを経由する。

これを海外旅行もしたことない大学生の時に読んだらかなり刺激的だったろうと思う。定番本になることにも納得。一方である程度海外旅行経験がある今の年齢で読むからこそ共感できる部分もあった。筆者は常にワクワクしながら旅をしているわけではなく、時々日本に帰りたいとか「なんでこんなことをしているのだろうか」とネガティヴになるときがある。また何をするもなく怠惰に数日過ごすみたいなこともよくある。このような常に非日常を楽しんでいるわけではなく、現実的な目線で日々を過ごす描写にリアリティがあり、「わかるわー」と共感できた。

また読んでみてわかったのだが沢木耕太郎はなかなかのインテリで海外の人に日本についていろいろ聞かれても「すいません、知らないっす」みたいな回答になることは滅多になく、ある程度適当にそれなりの回答をしている。そしてコミュニケーション能力も高いのでいろんな人とも交流しているのでそういうところも本がおもしろい理由になっている。

驚いたのは建築家の磯崎新と友達だったということ。これは日本の出発前の沢木が仕事で磯崎にインタビューしたのがきっかけだが、プライベートでも親交があってイランのテヘランで磯崎夫妻と再会するという話が本にも書かれている。当時何者でもなかったら無名のライター沢木が世界的に有名な建築家の磯崎と家族ぐるみの仲になっていることがすごいw

いろんな国を訪れた沢木だが自分が印象に残ったのはアフガニスタン。当時はまだ戦争が起こる前なので普通の中東の国として描写されている。ヨーロッパのバックパッカーはインドをよく目指すらしく、逆にインド帰りのバックパッカーと落ち合う国がアフガニスタンだったらしい。アフガニスタンのホテルとかで今からインドに行く旅人にたいしてインド帰りの旅人が先輩風を吹かすのはよくある光景だったとのこと。こういう文化はもう廃れているだろうから本の中でしか味わえない世界だと思った。

自分が大学生の時に読んだ定番の海外本に小田実の「何でもみてやろう」がある。これは結構古い本でなんと深夜特急の旅をしていた当時26歳の沢木も読んでいたようだ。「何でもみてやろう」はアメリカ留学から世界旅行に出るというパワーあふれる話。

こうしてみると

何でもみてやろう

深夜特急

という流れがあり

深夜特急を読んだ若者がインドへ旅行するみたいな流れができたのかなと思っている。

そしてインドへの旅を自己実現、自分探し的な文脈で消費したのが高橋歩。ポエム系旅人として2000年後半から2010年代、ちょうど自分達が大学生の頃に結構流行した。それが意識高い系の源流になっていると考える。

そっから高橋歩をまねた旅人がまた量産された印象がある。なので世に出回っている旅本は「人生は行動したもん勝ち!」のようなマイルドヤンキー的な思想が割とあって高橋歩チルドレンだと思っている。こういう旅本は旅している人に教養がないのでつまらないw

そういう意味でも「何でもみてやろう」の小田実は結局奨学金もらって留学するようなインテリであり、沢木も教養があった。

この流れを受け継いでいる一人は高野秀行さんという作家。クレイジージャーニーにも出たことがある。アジアの辺境に一人で行って謎の生き物を探しに探検するような頭のおかしい人。もともと早稲田大学の探検部出身。高野さんも勢いで行動をよくするけど、ちゃんと現地の言葉を学習してから出発したりしていて、そういう真面目なところがある。言葉が喋れるので現地の人ともコミュニケーションできそれが本をまた面白くしている。