not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

漫画「べしゃり暮らし」を読んだ

星3.8

(中盤までは面白かったが後半失速した)

  • 人を笑わせる前に自分が楽しめなければならないという話が出てきた。何かを創作し他者に伝えることをやるには自分と他者どっちを優先するのか、もしくはバランスなのかの葛藤がある
  • 自分の方が面白い、アイツは天才的に面白くて尊敬しているという感情を両立させているのが芸人なんだなあと思った
  • 職業が芸人というより生き方が芸人という感じがする。そもそもの思考が芸人。
  • セリフを文字でしか伝えることができない、間を表現するのが難しい中で漫才をテーマに漫画を描こうと思った作者の覚悟がすごい
  • 作者は「この漫画を描く前は漫才のネタとかを考えるのが笑いのセンスのない自分にとって一番難しいと思っていた。しかし実際に描き始めるとそうではなかった。」と言っていることが興味深い。芸人の舞台上の顔、舞台外の顔といったような両面を漫画で表現することが難しいのではないかと思う。
  • よく芸人の話で「舞台で一度ウケるとその快感を忘れられずに芸人を続けてしまう」というものがある。この漫画でもその舞台でウケることの高揚感がよく表現されていた。例えば会場が温まっていない時は最初は何をやってもウケない。しかしそんな空気の中でも全力で漫才を続けていくことでだんだんと笑いが起きて最後にドッと大爆笑が起こる。この一連の緊張と緩和を読者は体感できる。
  • 自分たちのやりたいネタをやるのか、大衆にウケるネタをやるのかこの葛藤も良く出てきた。例えばエンタの神様のような番組からオファーが来て自分たちのスタイルとは違うネタを求められるといったこと。実績がない時は大抵自分の主張がただ強いだけのように思えた。
  • 相方は友だちかビジネスパートナーかという話もよくあった。これもバランスであるがビジネスパートナーとして極めたその先にそれまで違った形の友情が生まれることもある。そこを描ききっていてすごい。

漫画の演出

  • 主人公は高校生で漫才の相方も同じ学校の高校生。物語はすぐに学校卒業から芸人の養成学校にでも行くのだと思ったけど意外と高校生活が長い。芸人の話なのに芸人になる前の話が長いということに作者の演出のうまさがあると思った。ここをしっかりと描くことにより芸人のテクニック的な話が主題ではなく主人公の成長が中心にあることがわかる。
  • 高校生の主人公が一流の芸人と絡むようになるという設定はあくまで漫画の設定なのでここのリアリティは自然と受け入れることができた。だいぶありえないが。
  • 主人公の単純だけどどこか素直ではないところがスラムダンクの桜木花道に似てる。ただ主人公の圭佑はかなりの天然
  • 7巻くらいで衝撃の展開があった。演出としてやりすぎではないかと思った。がしかし感情をグッと動かされた。「読者の感情を動かすことが漫画の目的」という話を以前別の本で読んだので、そういう意味ではさすが長年ジャンプで連載しているだけある
  • 芸人養成学校に入学してライバルが出てくると話が一段と面白くなった。

良くない

  • 頻繁に「中途半端は良くない」というテーマが描かれているがこれはヤンキー漫画定番の考え方だと思った。聞こえはいいがひとつに絞るか、絞らないかという二元思考である。物語としてはわかりやすいが実際の現実世界でこの考え方を導入すると結構辛いと思う。二元思考ではなくバランスであり配分にグラデーションがあることを意識しておきたい。
  • 17巻あたりで主人公にピンチが訪れるがここの展開が無理やり過ぎてストーリーを終わらせに来た感が半端なかった。それまで築いてきた漫才師のリアリティが崩れたのでもったいない。
  • 物語の後半は特に「相方とは何か」というテーマがメインになっていた。自分としては動画制作などの創作活動をする上で相方はいないのでそこまで興味のあるテーマではなかった。なので後半から終盤にかけて読んでてワクワクするような感情はあまりなかった。漫才ではなくてピン芸人の話があれば読んでみたい。
  • 週間〜月次連載だと回ごとの展開が重要。単行本になるとまとまって読むので個別の展開がやや無理やり感があった。このへんは連載漫画だと避けられようがないのかもしれない。もしくは連載をリアルタイムで読むと違うのかも。