not good but great

プログラミング、アート、映画・本の感想について書きます。

「自分以外全員他人」を読んだ

2023年の太宰治賞の作品。たまたまtwitterで流れてきて町田康が帯を書いていて興味があり読んだ。

舞台はコロナ後の現代。主人公はパッとしない人生を送る中年男性。以前は結婚を考えた恋人がいたが東北の震災や失業を経て恋人を幸せにする責任を負えないと思い別れる。それから非正規のマッサージ師の仕事を見つけるが人間関係もうまくいかずコロナも来て鬱病のような状態になる。

何をやってもダメなので主人公は日常的に死にたいと思っていた。しかし自殺をすると他人や家族に迷惑がかかるのでそれはしないと決めている。そんな中ある方法で死ぬことを思いつく。そこから来年の春に死ぬと心に決めて半ばわくわくしながら日常を過ごしていく。。。

読み始めて主人公はネット用語でいう、「キモくて金のないおっさん」(社会的な弱者でマイノリティ勢からも認知すらされない)だなと思った。自分の中でこの「キモくて金のないおっさんどうするのか問題」というのは前々からよく考えるテーマだった。なぜ問題かというと失うものが何もないので他人に危害を加える犯罪を起こす人が極まれに出てきているから。このような社会問題について今の文学がどういう答えを提示するだろうかと気にしながら読んだ。

結論を言うと救われる答えの提示はなく、後味悪いバッドエンドだった。原因は主人公の強すぎる自意識かなと思う。主人公は日ごろから他人に迷惑をかけないように過ごしており、例えばマナーを守らない人に対してイライラすることが多かった。このようなことがあるたびに主人公はまさしくタイトルにあるように「みんな自分のことばかり考えて信じられない。自分は他の人のことを考えているのに。。」と思っていた。しかし物語の後半では自分の死が来年の春になると決まっているせいか行動が段々と大胆になり今まで鬱憤を晴らすかのような行動をとってしまう。それは自分のポリシーと反することであるはずだが、最終的にタイトルにある「自分以外全員他人」という言葉がブーメランのように返ってくるのであった。

「自意識が強い」についてもう少し詳しく述べると主人公の認知は歪んでおり、他人の言動から勝手に結論を出してしまう傾向が強かった。物語の中で主人公と親しい人間がそれを指摘する場面があったが、特に反省する様子もなく自分の考えを改めることをしなかった。読んでいてあまり気持ちの良い場面ではなかったが、ただ中年男性の独りよがりな考えをリアルに描いているとも言えて自分はこうはなりたくないと強く思った。

後日、作者のインタビューを読むと作者自身も昔から死にたいと思っていたらしく太宰治を読むことで何とか生きていたような人物らしい。それを知ると明るい希望を提示するような終わり方をしないのにも納得できた笑。